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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)1181号 判決

控訴人

仲川利幸

代理人

田上義智

中垣一二三

西田温彦

被控訴人

柏原市

代理人

関田政雄

福村武雄

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする

事実

控訴代理人は、本件については原判決を取消してこれを原審に差戻す旨の判決が相当である旨申立て、その理由として、本件については、原審以来当審第八回口頭弁論期日に至るまで、控訴人につき、弁護士田島順、或いほ同木村楢太郎等が訴訟代理人として訴訟追行に当つているが、控訴人は最近まで本件訴訟の存することすら知らず、ましていわんや右弁護士らに同訴訟の処理を委任したこともなく、右はすべて控訴人方従業員の横田国松が控訴人に無断でその氏名を冒用して訴訟委任行為をなしたことに基くものであつて、同弁護士らのした従前の訴訟追行行為はすべて無用であり、且つ控訴人としては右弁護士らのした本件控訴の提起を含む従前の行為をすべて追認しないと述べ〈証拠判断略〉た。

被控訴代理人は、控訴人の主張にして真実であるならば、控訴人は本件控訴の提起すら追認しないというのであるから、本件はすでに原判決が確定して再審の訴のみが許されるのであり、然らずとしても本件は不適法な控訴に基くものとして控訴却下の判決が相当であると述べ、右の点に関する立証として、当審証人木村楢太郎の証言を援用し、乙第五号証の成立を認めた。

(なお、前記当審第八回口頭弁論期日に至るまでの控訴人代理人田島順並びに前叙の点を除く被控訴人代理人の各当審における申出、主張及び立証は、右田島順において、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、当審証人友安唯夫の証言を援用し、被控訴代理人において、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた外は、すべて原判決事実摘示のとおり((但し同摘示中「被告中川利幸」とある部分はすべて「被告中川こと仲川利幸」と訂正する))である。)

理由

本件控訴の適否につき判断する。

本件記録によれば、被控訴人は、訴外株式会社松永組を主債務者、「大阪市天王寺区東高津南之町、中川組こと中川利幸」外一名を保証人として、請負契約に関する損害金請求の訴訟を大阪地方裁判所に提起し、同訴状は昭和三二年八月二二日右「中川利幸」方に送達されたこと、同人の訴訟代理人として、いずれも「仲川利幸」の署名および「仲川「なる押印のある同年九月三日付弁護士木村楢太郎宛および昭和三七年七月四日付弁護士田島順宛各委任状(及び右木村弁護士の昭和三九年三月四日付弁護士的場悠紀宛の復代理委任状)が裁判所に提出され、爾来右弁護士らが前記「中川利幸」の代理人として答弁書その他の準備書面の提出および立証等すべての訴訟行為を追行したこと、その結果昭和三九年八月二六日被控訴人と前記「中川利幸」(後に更正決定により「仲川利幸」と表示更正。なお代理人は前記の弁護士三名)に対し原判決が言渡され、同判決正本は同年九月一二日右木村弁護士宛に送達されたこと、同判決は被控訴人の全面勝訴の判決であつたところ、前記「中川利幸」代理人田島順名義をもつて同月二二日当裁判所宛に控訴状が提出され、同時に「中川利幸」の署名および「中川」の押印ある同日付同弁護士宛の訴訟代理委任状も提出され、爾来第八回口頭弁論期日に至るまで同弁護士が右「中川利幸」の代理人として控訴状の陳述その他の訴訟行為を追行したこと、なお同弁護士はその後死亡したこと、以上の事実が認められる。

しかるところ、〈証拠〉によれば、控訴人はかねて奈良県の肩書住居地で建築業を営み、前記大阪市天王寺区東高津南之町に大阪営業所を置いて従業員横田国松らをして営業に当らしめていたところ、右横田は控訴人に無断で前記株式会社松永組のため控訴人名義で保証をなし、更に右保証にからんで被控訴人より本件訴訟を提起されるや、ことを隠蔽するため右松永組の関係者と協議し、控訴人名義をもつて前叙の如く木村、田島等の各弁護士に訴訟処理を委任し、原審で敗訴するや更に同様田島弁護士に控訴の提起およびその後の訴訟追行を委任していたが、右田島弁護士の死亡に伴いことの真相が明らかになつたものであつて、その間控訴人は、右保証の事実はもとより、本件訴訟の事実を全く知らなかつたことが認められ、これを左右する資料は存しない。

以上の事実によれば、本件訴訟は、被控訴人が控訴人(その表示を仲川でなく中川と誤つたこと、住所を大阪市としたことは同一性を左右するものではない)を相手どつて提起したところ、前記横田国松が控訴人の氏名等を冒用して弁護士に訴訟処理を委任し、当審第八回口頭弁論期日に至つたことが明らかであるところ、右の如く訴状に被告として表示せられた者については、たとえ現実にはその氏名冒用者が訴訟代理人を選任してこれに訴訟を追行せしめた場合といえども、右被告と表示せられた者が当該訴訟の当事者たるべきものと解せられるから、右当事者たるべき控訴人の授権を欠く前叙各弁護士の原審以来の訴訟行為はすべてその効力がないといわなければならない。

尤も判決については当然無効ということは考えられず、且つ本件の如き場合においても判決の送達は前記木村弁護士に対する送達をもつて一応これを充足したものと解するのが相当であるが、同判決に対する前記田島弁護士の為した控訴の提起につき、控訴代理人はこれをも追認しないというのであるから、結局本件は、先ずその前提となる控訴自体、不適法としてこれを却下するの外ないものである。

なお控訴費用の負担につき、本件の如き場合、本来は民訴法九九条によりその負担者を決すべきであるが、前記の如く田島弁護士が死亡した以上、その相続人または前記横田国松に負担を命ずるのは相当でなく、かかる場合は訴訟費用負担の原則に還るものと解するのが相当であるから、民訴法八九条によりすべて控訴人の負担として主文のとおり判決する。

(入江菊之助 小谷卓男 乾達彦)

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